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2024年10月08日(火) 発刊日

東北現場の底力/JR東日本東北建設PMO・福島駅構内上りアプローチ線新設工事(福島市)/BIM活用で施工工程の安全対策を徹底/点群データを活用し配線計画

2024.05.20

 JR東日本のビッグプロジェクトとして注目を集める福島駅上りアプローチ線新設工事が大詰めを迎えた。奥羽本線(山形新幹線)と東北新幹線の上下共用アプローチ線を分離することで、上り列車における2度の平面交差解消や輸送障害時の早期復旧を図ることなどが目的。現場は線路が接近する狭あいなヤードでの施工が多く、BIMの積極的な活用など徹底した安全対策を図りながら、列車の運行を妨げることなく工事を進めている。
 福島駅は現在、奥羽本線(山形新幹線)と東北新幹線下りホーム(14番線)のアプローチ線が上下共用となっており、東北新幹線の上り列車は14番線に入線するため東北新幹線の下り線を横断。さらに連結の後、上り線へ戻るために再度下り線を通過することから、2度の平面交差が発生している。
 このプロジェクトは、ダイヤ設定の制約や異常時における他路線への影響を回避するため、上りホーム(11番線)直結の上り線専用アプローチ線を新設し、共用線を上下分離することで平面交差の解消を図る。これにより上下列車の同時発着など柔軟なダイヤ設定が可能となるほか、安全で安定な輸送体系が確保される。2017年度から調査測量に入り、21年8月に着工した。
 アプローチ線新設の総延長は約1300㍍で、内訳は既設高架橋拡幅70㍍、高架橋区間345㍍、鋼下路桁34㍍、補強土区間91㍍、土工区間760㍍。加えて新設に伴う奥羽本線(ローカル線)約800㍍区間の改良も行う。施工は福島駅側(既設高架橋拡幅~R2高架橋)の1工区を鉄建、三河踏切側(R3高架橋~補強土・土工区間)の2工区を大林組、軌道工区(奥羽ローカル線移設含む)を仙建工業が担当している。
 現場は、東北本線をはじめとする在来線や道路構造物などが混在する狭あいな駅構内およびその周辺で、上りアプローチ線を新設するに当たっては道路などの空頭確保や既設物を縫う形で配線・構造計画を検討する必要があった。
 制約された地理条件を克服するため、発注者のJR東日本東北建設プロジェクトマネジメントオフィス(JR東日本東北建設PMO)は、配線、構造の設計に初めてBIMを採用。駅構内や周辺の点群データを収集し、列車の近接状況やJR用地、既設構造物などの諸条件を組み合わせて検証した。
 その結果、Gt1鋼下路桁は県道庭坂福島線(通称=庭坂街道)の西町跨線橋、R2高架橋は奥羽ローカル線、R5高架橋は曽根田踏切の上空で交差し、R6高架橋は東北新幹線を潜り既存の三河踏切に擦り付けるルートを導き出した。この新設アプローチ線は、西町跨線橋など道路や上り線アプローチの空頭を確保したほか、最大勾配37・5パーミル、最小曲線半径240㍍と急勾配・急カーブを擁しながらも安全安定な列車の運行を可能とした。JR東日本東北建設PMO南東北プロジェクトセンター浅川邦明チーフは「非常に多くの制約条件を詳細に検証することで設計の課題を克服した」と話す。
 BIM導入の成果は、安全な列車運行が大前提となる線路が近接する狭あいな施工ヤードで発揮された。奥羽本線(ローカル線)と斜角で交差するR2高架橋の施工は、トラス式支保工時に電車線支持ブランケットがトラスと干渉しないよう、3Dモデルで検証した。工程や時間設定に当たっては、構造物同士の離隔を高精度で把握し、シミュレーションを重ねながら隅々までリスクを洗い出した。場所打ち杭では、ARにより杭芯位置を人工衛星で測位しながらきめ細かなチェックを行った。鉄建の江口賦佐幸所長は「BIMやARを積極的に活用したことで品質面や安全面で大きな効果があった」と振り返る。通常の安全対策においても、列車見張り員の合図による作業中断・開始連絡や足場の適切な養生などにより3大労働災害や線路への飛散防止などに努めた。
 現場だけでなくJR東日本東北建設PMOも発注者の立場から、迅速な「き電停止」手続きや作業工程のサイクルタイム順守など安全対策に尽力した。800㌧クレーンで架設した西町跨線橋を跨ぐGt1鋼下路桁については、関係機関と調整の上、23年7月2日22時から翌3日5時まで福島駅の東西を結ぶ重要幹線を通行止めとした上で100㌧超の構造物を一気に架設する難工事を完遂。朝日が昇るころには無事に福島市のシンボルカラーのひとつである黄色の鋼下路桁が姿を現すことができた。
 作業時間の日中帯確保に向けては、22年3月から約1年間、福島駅~笹木野駅~庭坂駅まで代行バスを手配した上で、長期間列車を運休し奥羽本線(ローカル線)に近接する高架橋の安全かつ円滑な施工を可能とした。浅川チーフは「工事部門だけでなく営業部門などと連携・協力し工期短縮や施工性の向上に努めた」と強固な協力体制の構築に尽力した。
 3月20日時点の進捗率は約8割で延べ作業人数は1工区(鉄建)が2万6101人、2工区(大林組)が1万9774人、軌道工区(仙建工業)が6500人。26年度末の完成に向けては、1工区で接続部高架橋の構築、2工区で地上部の防護壁や排水施設の設置を進めるほか、軌道敷設も最盛期を迎える。浅川チーフは「より便利で快適な新幹線を支えるためにも引き続き安全第一で着実に工事を進める」、江口所長は「JR東日本にとって重要な工事を安全第一で進めていく」と最後まで気を引き締めて、安全安定な新幹線輸送に向けて受発注者一丸となって完成させることを誓った。