2025-08-18# 物件(仙台圏)
仙台圏のオフィスビル市場動向/都市力の向上に長期的視野で地元企業の成長促進を/東北大の卓越大認定をトリガーに
仙台市中心部で建設中あるいは開発計画を表面化させているオフィスビル開発プロジェクトを別表にまとめた。中心部ではこのほかにも①青葉通沿い駅前エリアでのEDEN跡地計画におけるオフィス機能の誘導(構想見合わせの見方もあり)②南町通沿いで既存ビルの解体後に私鉄系不動産会社が8階建て前後のオフィスビルに来年末当たりでの着工を見通すほか③青葉通沿いで電力会社系不動産会社が新たに用地を取得し、既存ビルからのテナント移転の受け皿と目されるオフィスビル開発構想④同じく青葉通沿い駅前エリアでの地元大手企業の自社ビル建て替えに伴う周辺地権者も巻き込んだ再開発構想⑤仙台駅西側の東五番丁通沿いで金融機関のビル建て替え計画に伴う外部テナントの導入検討⑥広瀬通沿いでの製紙メーカー系不動産会社による既存ビル建て替え時期検討―など、動きは表面化していないものの、計画具体化をうかがう構想が複数存在している。
昨今の建築費の高騰により、既着工プロジェクトも含め総事業費の拡大を余儀なくされる中、本紙3月28日付で掲載したように国内地方四大都市・札仙広福の中で仙台市のオフィス賃料が最も低い状況で、事業費の拡大分を容易に募集賃料に転嫁しにくい状況が垣間見える。足もと(6月)でのオフィスビル空室率は全体で6・15㌫と前月比0・24ポイント上昇したが、既存ビルは0・11ポイント低下の5・80㌫(三鬼商事調査)と堅調な状況に映る。だが、10年スパンで平均賃料を過去と比較すると、仙台市での25年4月時点での(1坪当たり)9425円は、11年4月時点の9115円に対し300円程度しか上昇していない。天神ビッグバンで再開発ラッシュが続く福岡市や駅前周辺開発が進む札幌市が同期間に2000円以上上昇しているのとは対照的だ。仙台は両市に比べ同期間内での新築オフィスビルの供給が少なかったことが要因として挙げられるが、近年竣工した中心部のオフィスビルを見ると、その入居状況は一部を除き「足早に入居が決まっている」とは言えなさそうだ。市内の新築オフィスビルの募集家賃を見ると、JR仙台駅近接の一部のビルの坪当たり3万円(共益費込み)前後の事例を除いてはおおむね同2万円前後のケースが多いが、これだけの家賃負担を苦にしない企業が他大都市ほど多くはないのが実状と見るべきだろう。
七十七リサーチ&コンサルティングの調査研究レポート「宮城県から東京圏への人口流出の要因分析」によれば、国内の代表的な支店経済都市である札仙広福は進学期に周辺から人口を集め、就職期にそれを東京に送り出すポンプのような機能を持つが、中でも仙台市は市内の事業所のうち首都圏に本社を置く事業所の割合が16・9㌫と高く、東京圏を除く43道府県では全国1位となっており、これら中央資本企業の認知度の高まりや、これらとの接触機会の増加により大学卒業後の東京圏への就職を促進させる『放流型』ダムの傾向が強いと指摘している。さらに、大企業の支店集積が高まると、それらへの経済的な依存度が高まり地元企業が育ち難い環境が醸成されていることも示唆している。これら中央資本企業の一部によって高賃料オフィスの需要の多くが満たされているにすぎない現状を直視し、この過度な支店経済構造を是正して優秀な人材の県外流出を防ぐために魅力ある地元有力企業をどう増やしていくかが長期的視点では不可欠だろう。
この地域経済構造の転換に向け起爆剤になる可能性を帯びているのが国際卓越研究大学に昨年末認可された東北大学発のスタートアップ企業。その数は経済産業省調査で24年度は全国7位の222社(前年度比23社増)で、同大では卓越研究大認定後の10年目に750社、25年目で1500社に増やす目標を掲げている。既存のスタートアップ企業は青葉山キャンパス内のマテリアル・イノベーションセンター青葉山ガレージや同大学連携ビジネスインキュベータ(T―Biz)、片平キャンパスの産学連携先端材料研究開発センター、キャンパス周辺のオフィスビル内に所在するものなどさまざまだが、すでに首都圏に本社機能を移設しているものも少なくない。これら企業の大学内施設内での入居時期制限以降の移転時や事業規模の拡大に合わせ、その時期における企業の『身の丈に合う』『使い勝手の良い』選択肢が用意されている環境整備が望まれている(2面へ続く)。