2025-11-17# 物件(大河原)
角田市/宇宙産業集積構想 本年度からニーズ調査/JAXA拠点中心に立地増を図る/市主体でインキュベーション施設整備も
民間参入が進み、世界的に市場規模が右肩上がりの宇宙産業。日本も市場規模倍増を目標に、政府資源の投入と民間投資の促進を図っており、近年は約100社の宇宙スタートアップが設立された。東北地域でも角田市にあるJAXA角田宇宙センター(以下JAXA角田)で研究開発を支援する新施設の整備が進み、これを契機に宇宙産業の集積が期待される。市は本年度に「かくだ宇宙関連産業振興ビジョン」を策定し、これからニーズ調査のフェーズを迎える。
東北地域の宇宙産業の動向を見ると、宮城県では東北大学発の宇宙ベンチャー・ElevationSpace(仙台市青葉区)が2021年に発足。24年1月には東北大学が宇宙ビジネスフロンティア研究センターを設置した。秋田県では能代市にロケット実験場を有するJAXAが液体水素を活用した研究や施設整備に取り組んでおり、ベンチャー企業などが集積するオフィスラボの整備構想も掲げている。福島イノベーション・コースト構想が具現化している福島県浜通り地域には航空宇宙関連企業が相次いで進出している。
こうした盛り上がりを受け、本年度から東北経済産業局とともに角田市、秋田県能代市、福島県南相馬市が広域連携の検討に入った。東北経産局は東北のニュースペース企業の成長加速化と宇宙産業の拠点形成に向けた可能性を調査中で、ASTRO GATE(東京都あきる野市)に業務を委託。国内の実証試験施設の立地状況や想定ユーザー企業へのヒアリングなどを行い、産業集積する上で必要な施設・設備の調査・整理に当たっている。
JAXA角田が立地する角田市は宇宙分野を核とした施設整備やイベントを展開している。今後はJAXA角田の新施設「官民共創推進系開発センター」の開所といった大きなポテンシャルを生かし、市内で宇宙産業の集積を図る。ことしに入り、宇宙ベンチャー向け小型ロケットエンジン開発などを展開するエアロディベロップジャパン(東京都小金井市。以下ADJ)が市内の廃校を活用した立地が決まり、新施設の波及効果がみられたところ。
JAXA角田の新施設は民間事業者のエンジン開発を推進するため、ハード面では試験設備の提供、ソフト面ではコーディネートや情報提供の拠点として機能する。来春の稼働を予定し、阿部和工務店が工事を進めている。
本年度に市が策定した「かくだ宇宙関連産業振興ビジョン」では「宇宙開発拠点のまち」としての地位確立を短中期的な目標とし、長期的には「宇宙産業という新産業の創出により、就業機会の創出と市内産業の多角化を図り、持続可能な地域経済を実現する」目標を掲げている。現在、市内の主要産業は自動車と電子、食品。ここに宇宙産業を加えたい考えで、市の担当者は「リスク分散の意味でも既存産業と宇宙産業で柱をつくりたい」と意気込む。宇宙産業で用いられる技術やデータは、他産業への波及効果も見込まれる。サプライチェーンを構築できるレベルになったら、県と協力しながらより広く供給網を展開していく方針だ。
◎企業等立地と貸付施設の調査
12月補正で予算化へ
また角田市は本年度から、東北経産局と同様に市独自でも立地ニーズを調査する。併せて研究開発のための「インキュベーション施設」の建設を想定した整備手法の調査も行う。12月補正で調査費を予算化し、宇宙産業ニーズ調査の実績がある企業を選定するため公募型プロポーザルで委託先を決める。調査期間は2026年度上半期までを見込む。
ニーズ調査は、宇宙に特化した研究を行っている大学や企業、宇宙技術を用いた事業を展開する企業、液体水素を扱う企業など幅広くヒアリングを実施し、必要な機能・設備とコストを把握して立地場所を優先的に検討したい考え。
インキュベーション施設は、市場規模が拡大する宇宙産業といえどもスタートアップやベンチャー企業は資金面での苦労が予想されることから、市内にまだない貸付型の施設としてイメージしている。JAXA角田での実験は数カ月以上かかることが想定されるため、一時的な拠点としても活用する。ADJと同様に廃校活用策も視野に入れており、旧枝野小学校や近い将来の再編で発生する廃校活用も探る。PFI方式を含め事業・整備手法を検討する。具体化に向けては不動産会社やデベロッパーとも連携しながら整備に取り組みたい考え。
市の担当職員は「新たに立地する企業が持っているつながりを生かし、他分野のビジネスやサービスにも宇宙技術を取り込み、市全体で広げていきたい」と将来イメージを語る。



