2025-09-16# その他
DC誘致で東北は高いポテンシャル/経産省が集積見越して提案公募へ/数十~百ha規模の広い敷地にニーズ
◎生成AIがビジネスや日常生活に浸透しつつあり、この流れは今後も加速化することが確実視される。こうした中でデータセンター(以下DC)需要も高まっている。経済産業省はDC集積などを見込み、立地に向けて具体的な提案の募集を始めた。既存のDCは東京と大阪に集中しているが、冷涼な気候や首都圏および脱炭素電源からの距離が武器となる東北は、立地先としてポテンシャルが大きい。東北電力も7月に専門チームを立ち上げ本格的に誘致に乗り出している。
DCは、サーバーやネットワーク機器を〝ラック〟と呼ぶ専用棚に収納し設置している施設で、24時間365日稼働して大量のデータを処理・保存する重要な社会インフラ。建屋には耐震性能はもとより冷却設備とバックアップを含む電源設備が不可欠で、無停電電源装置とバッテリー、非常用発電機は全て2重化するほか、電線や通信線も2系統を設ける。国内のDCは東京・大阪に8~9割が集中している。
スマートフォンのアプリケーションサービスは基本的に全てDCを基盤として提供されているほか、爆発的に普及する生成AI、自動運転、年間電力消費がオランダ1国並みの規模に増えたビットコインなど、DCを必要とするコンテンツは全世界で増加の一途をたどる。
BCPや電力ひっ迫の回避、国家安全保障の観点から、今後に新設されるDCは分散立地が望まれている。東北は西日本より一般的に電力価格が高いが、サーバーやチラーの冷却には外気温が低いほうがいいため光熱費を加味するとトータルコストはほぼ変わらないとされる。加えて、首都圏に近いのでエンジニアの対応が必要な突発的なトラブルにも対応しやすい。
現在、東北地方には福島県白河市にヤフーが保有し、AI向けGPUサーバーに対応できるスペックを備えるIDCフロンティア福島白河DCなどがあるが、全国シェアはわずか1・5㌫にとどまる。
東北経済産業局情報政策・半導体戦略室の井元尚充室長は「東京・大阪エリアからの分散先として東北に期待している。従来のDCは数万㌔㍗の受電容量で十分だったが、AIの普及で数十万~百万㌔㍗(1㌐㍗)規模が必要になる。これはほぼ発電所1基分に相当する。必要な敷地も数十㌶~100㌶という広さとなり、仮に1㌐㍗級で50㌶程度を要するDCならば投資額は1兆円とも試算されている」と話す。
8月26日には経済産業省がGX戦略制度の創設を見越し、自治体や事業者(基本的には都道府県)からの提案募集を開始した。電力系統などインフラに配慮したGX型データセンターの適正立地などを目指すもの。提案や相談を希望する場合は10月27日まで同省の専用フォーマットから登録する。提案などを踏まえて選定要件を具体化した上、改めて公募を行う。
DCの提案については、電力インフラが将来的に㌐㍗級に拡張できること、集積地全体でおおむね30㌶以上の用地を用意でき、土地が複数箇所に分散する場合は1カ所当たり10㌶以上あることなどが公募での選定要件になる見込み。支援に当たっては国家戦略特区制度との連携を視野に入れる。
◎東北電力が専属チーム
大規模事業者に照準
3月に樋口康二郎社長(現会長)が、グループを挙げてDC誘致を積極的に進めると表明した東北電力。7月には専属メンバー5人によるタスクチームを立ち上げた。瀬戸寿之副部長は「国外を含む20社以上から問い合わせがあり、立地に向けて具体的な検討に進みそうな案件もある。DCはデベロッパー、ゼネコン・サブコン、機器を扱うメーカーや商社、エンドユーザーまで幅広いバリューチェーンがあるので全方位的に営業戦略を打って出る」と意気込む。
国際的な誘致合戦の様相を呈する中、同社が照準を合わせるのは〝ハイパースケーラー〟と呼ばれる数千台のサーバーと大規模な拡張用地を欲する事業者だ。自社遊休地は当然として工業団地や未開発の林野まで候補地として念頭に置く。瀬戸氏は「水害リスクと地盤、交通の便は事業者が重要視するポイント。加えて自治体や地域との関係性も重要で、立地により地域の利便性を向上させる視点も欠かせない」と話す。
東北には再生可能エネルギーの発電施設が多くあるため、RE100などの認証を取得しやすい点もメリットだ。DCの電力需要は安定して大きい傾向を示すため、発電量が一定しない再生可能エネルギーは不利に捉えられる向きもあるが、変圧器などの受変電設備や光ケーブルを取り扱う企業がグループ傘下にあるため、環境を整えるソリューションをトータルで提供できる体制が整う。
瀬戸氏は今後のDCについて、「生成AIが普及するとGPUというチップが組み込まれた専用サーバーが必要だが、物理的に重いため1平方㍍当たり2㌧程度の耐荷重を確保する必要があるといわれている。そうすると上下方向より横方向に拡張余地のある広い敷地が有利と考える事業者もいる」と明かす。
またGPUサーバーについては「1ラック当たりの消費電力が20㌔㌾㌂を超えると、冷却方式も空冷でなく直接冷やす水冷方式が有効と考えられ、既にアメリカのDCにはそのような設備が導入されている」と説く。AIの普及はDC建屋に要求されるスぺックも変えている。